クリエイティブ活動の拠点 スローライフがはじまる駅



静岡県の掛川駅と新所原駅を結ぶ天竜浜名湖鉄道の中間程に位置する無人駅舎・都田駅が、待合室・プラットフォームと一体化した開放的なカフェにリノベーション。駅には活気が出て、住民同士のコミュニティの拠点としても機能。リノベーションの新しい可能性を提示している。

01 待合室とカフェの開かれた関係性、カフェとプラットフォーム・電車との開かれた性に配慮したデザイン。駅舎としての固定概念を超えて、多様な利用形態を受容する工夫がされ、心地よく豊かでスローな時間を体験できる。

地域住民の活動を展示

ローカル線の無人駅が、2015年5月に「無人駅舎Miyakoda 駅cafe」として生まれ変わった。待合室とテナント店舗(薬局)のみだった駅舎を改築し、カフェと待合室・プラットフォームが一致化した新しい空間を創出。壁には、「マリメッコ」をはじめとする北欧ファブリックパネルが一面に飾られ、駅舎内には家具職人による家具や雑貨の逸品、マリメッコ生地を使用したハンドメイド作品を展示している。地域住民のサークル活動、ジャズライブや地域イベントに活用され、シャワー室(有料)の併設によりサイクリングの拠点としても利用が広がっている。

手がけたのは地元の工務店・都田建設ドロフィーズ。ライフスタイルを美しくするブランド「DLoFre’s(ドロフィーズ)」を立ち上げ、都田に常に進化しつづける敷地5000坪のスローライフ北欧空間「ドロフィーズキャンパス」を運営している。駅舎はこの施設への玄関口の役割も担っている。「都田建設の蓬台浩明社長は、20年地域住民に支えられてきた感謝を表したい、日本の原風景が残る都田を広くPRしたいということがベースでした。なにより地域を元気にしたいという念いが強く伝わってきました。都田駅は乗降客が年々少なくなっており、新規の開拓が急務な状況にありました。人を呼び込むにはその土地で生活する住民が活き活きしていなければ集まらない。地域住民が都田の魅力やアイデンティティーに気付き再認識する、自信を持っていただく必要性がありました」ともう一人の共同受賞者である建築設計事務所ピー・アイ・イーの代表取締役・坂本政彦さん。デザインコンセプトは、世界で一つのスローライフがはじまる駅。古い無人駅の魅力を維持しつつ、ジャズを演奏し、イベントを開く地域住民の活動を展示。「創るよろこびは人をつくり、つながりをつくり、街をつくる」という考えから、クリエイティビティを喚起する駅をデザインした。

整理し過ぎないデザイン

駅のプラットフォームがこれほど開放的な例はあまりない。駅の待合室とカフェ、カフェとプラットフォーム、そして電車との関係性を完全に開かれた空間にすることで、乗客と地域住民のコミュニケーションの形成を期待した。実際に地元の子どもやお年寄りの集合場所、コミュニティの場として利用が増え、駅に停車した遠来の乗客との会話が生じている。

壁にインテリアの象徴として飾られている300枚以上のファブリックパネルは、ワークショップにて制作したもの。天井に設置された木製の伝統仕口の照明器具やファブリックパネルの配置は、クラフトマンシップを刺激する棟梁の手仕事によるものだ。一見張り紙だらけの無秩序に見えるインテリアであるが、実は意識的にコントロールされている。「活気やマインドを伝えたいと、作り込み過ぎないよう意図してデザインしています。どういう場を創るか、どういう環境を作るかを考えた上でのバランスが重要で、スローライフやクリエイティブマインドがテーマのこの駅舎は、整理しすぎず、少し余白を残しています」。

2015年10月、この駅舎のある天竜浜名湖鉄道とのコラボで、オリジナルのスローライフトレイン「レトロドロフィーズ」の運行が開始。内装には「駅カフェ」と世界観を同じくしたデザインが施されている。11月には駅カフェが国連の公式サイト「ナスカ気候変動ポータルサイト」にて、世界で唯一の二酸化炭素排出ゼロの駅として紹介された。都田建設ドロフィーズでは今後、グッドデザイン賞、オリジナル列車、環境の取り組みなどで得られた評価・価値を多くのユーザーや地域の人々と共有。「世界で唯一のスローライフがはじまる駅」として、美しい暮らしを望む世界中の人が、この無人駅舎を訪れてくれるような創意工夫、情報発信をしていく考えだ。

02 ワークショップにて制作した300枚以上のファブリックパネルをインテリアの象徴的デザインに。ジャズイベントなど乗客と地域住民との新たなコミュニケーションを生んでいる。